人口減少時代における「利害関係人排除規定」の運用課題と今後の展望 ――公正と実務の両立を目指して――

, ,

はじめに

たとえば、民法第847条(後見監督人の欠格事由)には、
「未成年者、家庭裁判所の職員、破産者、被後見人の配偶者または親族などは、後見監督人になることができない」
という規定があります。

これは、公正性を守るための大切な仕組みです。上記の例に限らず、多くの法令で同趣旨の条文が存在します。

ここで、私はふと思いました。
「日本では人口が減ってきているのに、果たしてこの条文のような規制を完全に守ることができるのかな……。
すでに、この規制の遵守が難しい地域が出ているのではないか」と。

そこで、いくつかの事例や制度を調べてみると、過疎地域ではすでに現実的な課題が生じていることが分かってきました。
以下、その実態と今後の展望について整理してみました。

※本記事の執筆にあたり、調べて得た情報源は一般公開情報であり、それに行政書士としての実務経験を加味し、掲載しています。そのため、特定の参照元情報は掲載しておりませんことご了承ください。


1.利害関係人排除の目的

多くの法令では、「利害関係人」または「一定の親族関係者」を排除する条文があります。
その目的は主に次の3つです。

  • 公正な判断の担保(例:委員や監督人の除斥)
  • 利益相反の防止(例:成年後見人、遺言執行者など)
  • 社会的信頼の維持(例:公職選挙法、公証人法など)

いずれも、公平性・中立性を守るために欠かせない規定です。
ただし、こうした理念を現実の地域社会でどこまで維持できるか――そこに今、大きなギャップが生まれています。


2.過疎地域で生じている現実的な課題

(1)成年後見制度や遺言執行における人材不足

人口が減り、高齢化が進む地域では、「利害関係のない第三者」を見つけること自体が難しくなっています。
家庭裁判所の後見人選任や遺言執行の場面で、
「親族間に利害対立がある」「地域に専門職が少ない」といった理由から、手続が長期化する例もあります。

(2)農地法・行政委員会制度での定足数割れ

農業委員会や農地利用最適化推進委員会などでは、
地域の構成員の多くが親族や旧知の関係であるため、
利害関係人の除斥が相次ぎ、会議の定足数を満たせないケースも報告されています。
結果として、許可審査が遅れる、転用手続きが進まないなど、地域の実務に影響が出ています。

(3)第三者委員会の構成困難

学校事故や医療事故の調査委員会など、客観性が求められる場でも、
「完全な第三者」を地域内で確保することが難しく、
外部から有識者を招く、またはオンライン審査で補うといった対応が行われています。


3.法運用の変化と緩和の方向性

(1)形式的排除から実質的判断へ

近年では、単に「親族だから排除」ではなく、
実際に利害が対立しているかどうかを重視する柔軟な運用が広がりつつあります。
たとえば、家庭裁判所では、利益相反がない親族であれば後見人に選任される事例も増えています。

(2)広域連携と専門職ネットワークの活用

過疎地域では、司法書士・社会福祉士・行政書士などが協力し、
地域を越えて支援する「法人後見」「合同受任」「広域ネットワーク」などの取り組みが進んでいます。
オンライン面談や電子署名の活用により、遠隔でも中立性を確保できる環境が整いつつあります。

(3)透明性による信頼補完

AIやデジタル記録を活用して、手続きの経緯を残すことで、
関係者が関わっても不正や偏りを抑止できる仕組みを整える。
今後は、形式的排除ではなく透明なプロセスによる公正確保が重要になると考えます。


4.行政書士の新たな役割

利害関係人排除の原則を守りながらも、実務の現実と折り合いをつけるには、
地域の事情に精通し、かつ中立的立場で動ける専門家の存在が不可欠です。

行政書士は、相続・遺言・農地転用・許認可など、
まさにこの「公正な第三者」として関わる機会が多い職種です。

地域社会において、
「制度上の中立者」であると同時に、
「人として信頼される助言者」であること――
それが、これからの行政書士に求められる姿だと感じています。


5.おわりに

制度の公正さを守るために生まれた「利害関係人排除」の規定ですが、
人口減少や過疎化が進む今、現実との間に矛盾が生じはじめています。

今後は、形式よりも実質、排除よりも透明性を重視した仕組みづくりが必要です。
制度の公正を守りながら、地域の現実に寄り添う。
その両立に挑むことこそ、私たち行政書士に課せられた新たな使命ではないでしょうか。


6.行政書士にできること

行政書士は、遺言書の作成支援や相続手続きの代行、農地転用許可申請、契約書の作成など、
法律上の手続きにおいて中立・公正な立場で関わる専門職です。

とくに相続や遺言に関する場面では、
「家族の誰かが手続きを進めると不公平に見えてしまう」「感情的な対立を避けたい」といったお悩みに対し、
第三者として冷静にサポートすることができます。

行政書士はこうした業務を通じて、地域の公正と信頼の維持に貢献しています。
詳しい業務内容や費用については、以下のページをご覧ください。

[料金表]

また、ご相談やご依頼の検討などございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

[お問い合わせ]