仕事を始めて、ホームページを持ったり、Googleマップにビジネス情報を載せたあたりから、営業のお電話がばんばんかかってくるようになりました。
相手も人ですし、逆恨みされるのも困るので、なるべく真摯に対応しようとは思っていますが、ときにうんざりさせられます。
一方で、よく思うのは、「似たような社名が多いな」、「社名で検索すると全国にいくつも同名の会社があるな。しかも“営業”とか“コンサル”とかって、業種もだいたい似ている……紛らわしい」ということです。
そこで今回は、商法や商業登記法の条文をベースに、この一種の社会問題(笑)を少し掘り下げてみました。
※あくまでも個人的意見であるということをご理解のうえご覧ください。

商号の登記とは?
会社を設立するときに、まず登記されるのが「商号」です。商号とは、簡単に言えば会社の名前のことです。かつては「同一市町村内で同じ商号を登記できない」という制約がありましたが、2006年の会社法施行後は、この制約が廃止されました。
つまり、現在は「同一住所・同一商号」でなければ、重複登記が可能になっています。そのため、たとえば以下のような社名は、すべて登記できてしまうのです。
- 株式会社ABC
- 株式会社エービーシー
- 株式会社ABCジャパン
- 株式会社ABC商事
住所が異なれば、全部登記可能です。これが、似たような社名が全国に多い理由の一つです。
商号の登記と抹消に関する制度
商業登記法第34条の趣旨
現行の商業登記法第34条では、「登記された会社が解散し、その登記が閉鎖されたときは、利害関係人の申立てにより、登記官は当該登記を抹消できる」と定められています。
つまり、会社が消滅した場合に、関係者の申し立てをもって、登記を削除できるという制度です。目的は、旧商号を使って第三者が誤認しないようにするためです。
しかし現実には…
実務上は、この制度が「悪用」とまではいかなくとも、結果的に誤認や混乱を生んでいるケースも見られます。具体的には、以下のような動きが起こっています。
- 類似商号を利用して、有名企業や既存業者と誤認させる
- 苦情が増えたら商号を変えて再登記する、または代表者を替えて“新会社”として出直す
そして、旧会社の登記が閉鎖されたあと、別の事業者が同一または酷似した商号を別住所で登記できてしまう――これが問題の核心です。現行法では、閉鎖登記簿に基づく商号の保護期間や排他効が存在しないためです。
なぜ規制が難しいのか
このような状況が生まれる理由には、制度的な制約があります。
- 商号は全国一律で重複を禁止しているわけではなく、「住所単位」での制限に留まる
- 商号の登記抹消は利害関係人の申立て制であり、登記官の職権では限定的な削除しかできない
- 商号の「混同惹起」を理由に差止めを求めるには、不正競争防止法に基づく民事訴訟を起こす必要がある
つまり、商業登記法上は“登記できてしまう”構造になっており、「似た社名でグレーな活動をする会社」が温存されやすい仕組みになっているのです。
商号の乱立がもたらす影響
営業電話などで社名を聞いたとき、「どこかで聞いたような名前だな」と感じた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。実際、こうした「商号の乱立」は、制度上は合法であっても、社会的には混乱や誤認を招きやすい問題です。
閉鎖登記簿制度や商号抹消の仕組みは、もともと「利害関係人保護」のために設けられたものですが、現実には「制度のすき間」を利用して似た名前で活動する事業者も出てきています。
(なお、本記事では商業登記法など登記制度に関する内容に触れていますが、実際の登記申請業務は司法書士の先生方が行う独占業務にあたります。
ここでの記載は、あくまで制度の仕組みや背景を一般の方に分かりやすくお伝えする趣旨でまとめたものです。司法書士の先生方をはじめ、関連士業の方々に敬意をもって記しています。)
さいごに
制度の隙間を突いた活動は、法的には問題がなくても、社会的信用を損ねるおそれがあります。商号は会社の“顔”であり、信頼を築くうえで極めて重要な要素です。誠実な企業運営には、モラルと透明性が欠かせません。
行政書士は、こうした商号や法人登記の制度面についても理解を深め、社会の信頼を支える法務専門職としての役割を担っています。
制度や法の仕組みに関して疑問や関心をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。→ [お問い合わせ]
ちなみに、当事務所の名称「行政書士みやばやしオフィス」は、次のような理由で名付けました。
- 「行政書士」という文言は、行政書士法により表記が義務づけられているため
- 同姓の「宮林」表記で活動されている大先輩がいらっしゃるため、混同を避ける目的(ご迷惑をかけないように)でひらがな表記に
- 画数や文字数が多くなると書類作成時に煩雑(腕がつるので)になるため、できるだけシンプルに
- 最後に、姓名判断的な観点からも画数の吉凶を確認しました
そんな思いを込めて名付けた「行政書士みやばやしオフィス」でした。