もう忘れない!合名・合資・合同会社の違い ― 歴史と制度の意味から理解する

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行政書士や司法書士などの試験勉強をしていると、会社法の冒頭に登場する「合名会社」「合資会社」「合同会社」という3つの名前。

テキストにも太字で並んでいますが、覚えたと思っても数日後には混乱している…そんな経験をした方も多いのではないでしょうか。

正直なところ、実務でも合同会社以外はほとんど目にすることがなく、「なんでわざわざ合名会社なんて制度が残っているの?」と感じる人も少なくありません。

しかし実は、この3つの会社の違いは、単に「社員の責任範囲」の違いにとどまりません。 それぞれが誕生した時代背景社会の価値観の違いを映し出しているのです。

1.3つの会社の基本構造を整理しよう

まずは全体像を俯瞰しましょう。

【合名・合資・合同会社の比較表】

会社形態 責任の範囲 社員の種類 設立人数 主な特徴
合名会社 無限責任のみ 無限責任社員のみ 1人以上 人的信用で成り立つ会社。伝統的な商人組織。
合資会社 無限+有限 無限責任社員と有限責任社員 2人以上 無限責任と有限責任の折衷型。資本導入の過渡的形態。
合同会社(LLC) 有限責任のみ 有限責任社員のみ 1人以上 内部自治が柔軟。現代的な人的会社。

2.制度の背景 ― なぜこんな制度が生まれたのか?

「合名・合資・合同会社」、この3形態を理解するには、「会社法=商取引の信用制度」として見る視点が重要です。

◆ 明治の商法における「信用」の考え方

日本で会社制度が整ったのは明治時代。1890年の旧商法制定当時、株式会社は大企業向けで、町の商人や職人が選ぶのは「合名会社」「合資会社」でした。

当時の商取引は、いわば人と人との信用取引です。契約書よりも「誰と取引するか」が重要だった時代で、
取引先は「この人が責任をもって返済してくれるのか」を判断材料にしました。

信用を得るために、自らの財産すべてで責任を負う「無限責任」が信用の証でした。表現を少し変えれば、「自分の全財産を賭けてでもこの事業をやる」という覚悟を示す制度なのです。

◆ 合名会社:商人の「責任と信頼」の象徴

合名会社は、まさにその「信用第一の商人社会」から生まれました。
全員が無限責任を負うため、少人数で、強い信頼関係に基づいて設立されるのが特徴。
親族経営や地元の商人仲間など、関係性が密な集団に適していました。

明治期には「○○商店」「○○合名会社」といった名前の老舗が多く誕生しています。
今日でも酒造や味噌蔵、繊維問屋など、代々続く家業の中には合名会社のまま残っている例があります。

◆ 合資会社:無限責任と有限責任の橋渡し

時代が進むと、より大きな資金を集めたいというニーズが生まれます。
しかし、無限責任ではリスクが大きすぎて出資しにくい。
そこで登場したのが「合資会社」です。

無限責任社員が経営を担い、有限責任社員が資本を提供する。
つまり、”「信頼で動く人」+「お金で支える人」”という役割分担ができたのです。

この仕組みは、後の株式会社制度の原型でもあります。
株式会社では取締役が経営を行い、株主は出資に限って責任を負います。
合資会社はその“過渡的なモデル”として理解するとわかりやすいでしょう。

◆ 合同会社:21世紀の柔軟な信用形態

そして2006年の会社法改正で登場したのが「合同会社」。
英米のLLC(Limited Liability Company)を参考に導入されました。

合同会社の本質は、
「有限責任でありながら、合名会社のように内部ルールを自由に決められる」こと。
つまり、近代的な“信頼経営”の形なのです。

株式会社では株主総会や取締役会などの形式が求められますが、
合同会社では社員全員で意思決定し、利益配分の割合も自由に決められます。
まさに、現代版・合名会社のリスクを減らした進化形といえるでしょう。

3.なぜ今も合名・合資会社が残っているのか?

現代では新規設立のほとんどが株式会社または合同会社です。
それでも、なぜ法律上「合名」「合資」会社が残されているのでしょうか。

それには次のような理由があります。

① 老舗企業の存続形態
長い歴史を持つ老舗企業の中には、明治期からの合名会社が今も多数存在します。
家族経営や地場産業など、「信用」と「名誉」を重んじる業種では、
あえて形を変えずに残しているケースがあります。
会社の信用とは、“有限責任で守られた出資者”よりも、“個人として責任を負う商人”のほうが重みをもつ――
そうした文化的背景を反映しているのです。

② 経営のシンプルさ
合名会社・合資会社には、取締役会や監査役といった機関設計の義務がなく、登記も比較的簡易です。
家族経営で「自分たちだけでやる」場合には、むしろ形式的な手続きが少なくて楽という利点もあります。

③ 法制度上の保存
会社法は、過去から続く法人格の連続性を尊重します。
もし合名・合資会社の制度を削除してしまうと、既存の企業が法的根拠を失うことになってしまう。
そのため、制度として残している側面もあります。

4.比較で理解する ― 合同会社が“現代的”な理由

観点 合名会社 合資会社 合同会社
責任 全員無限 無限+有限 全員有限
信頼関係 密接 部分的 柔軟
意思決定 全員で協議 原則全員 契約で自由
利益配分 出資割合 出資+契約 契約で自由
現代的適合性 低い(信用重視) 中間 高い(自由+限定責任)

合同会社は、合名会社の「信頼構造」を現代化し、有限責任というリスク制御を導入した進化形です。株式会社よりも内部自治が柔軟で、
ベンチャー企業や専門家同士の共同事業に向いています。Google合同会社やApple Japan合同会社など、世界的企業の日本法人でも採用されています。

これは「経営の自由度」と「税務上の柔軟性」を重視した結果といえます。

5.まとめ ― “責任の進化”で覚える

合名・合資・合同会社の関係は、次のように整理できます。

無限責任 → 無限+有限 → 有限責任
― 商人の「信用」が制度として形を変えてきた

明治の商人たちは「信用=無限責任」だった。

合資会社で「信用+資本」のバランスを模索。

現代の合同会社では「信用+柔軟性+有限責任」という三位一体に進化。

  • 合名会社:信用=無限責任
  • 合資会社:信用+資本
  • 合同会社:信用+柔軟性+有限責任

試験では「無限責任社員」「有限責任社員」「社員の権限」などが問われますが、
単なる条文暗記ではなく、この “責任の歴史的流れ” を理解しておくと、自然と記憶が定着します。