「様式は自由です」と言われたときに、本当に自由だと思ってはいけない理由
行政手続を自分でやろうとしたことがある方なら、一度はこんな言葉を聞いたことがあるかもしれません。
「様式は自由です」
この一言を聞いて、
「それなら自分で書いて出せそうだ」
と安心する方もいれば、
「自由と言われる方が、かえって不安だ」
と感じる方もいます。
実はこの感覚、どちらも間違っていません。
なぜなら「様式は自由です」という言葉は、
嘘ではないけれど、誤解を生みやすい表現だからです。

「様式は自由」=何を書いてもいい、ではない
まず大前提として、
行政が言う「様式は自由です」は、形式面についての話です。
・Wordでもいい
・手書きでもいい
・指定のフォーマットはない
ここまでは事実です。
しかし、ここで多くの人が次のように受け取ってしまいます。
「じゃあ、内容も自由なんだろう」
これは、残念ながら違います。
行政には「見えない様式」が存在する
行政手続には、必ず次のようなものがあります。
・法律や条例に基づく判断基準
・審査項目
・内部で共有されているチェックポイント
・過去に通った前例
つまり役所の側には、
「この順番で、
こういうことが書かれていれば判断できる」
という頭の中の様式が、すでに存在しています。
それが紙で配られていないだけで、
中身の正解は、実はかなり決まっているのです。
見えない様式を外すと、何が起きるか
この「見えない様式」から外れた書類を出すと、
多くの場合、次のような反応が返ってきます。
・「この点をもう少し補足してください」
・「別紙で説明を追加してください」
・「修正して再提出をお願いします」
却下されるわけではありません。
ただし、手続は止まります。
そして多くの方が、ここでこう感じます。
「結局、どこがダメだったのか分からない」
なぜ行政は、様式を示してくれないのか
では、最初から
「この様式で書いてください」
と出してくれればいいのに、と思うかもしれません。
しかし、行政側にも理由があります。
理由①:ケースが多すぎる
同じ手続でも、
人によって事情はまったく違います。
すべてをカバーする様式を作ることができません。
理由②:様式を出すと責任が生じる
「この様式で出したのに通らなかった」
「様式に書いてないことまで求められた」
そうしたクレームを避けたい、という事情もあります。
理由③:考えて整理して書いてほしい
行政は、
「事実関係を整理し、要点を説明する力」
を暗黙の前提として求めています。
自分でやる人が、よくハマる落とし穴
よくあるのが、次のような書き方です。
・経緯を時系列ですべて書く
・感情や不満を正直に書く
・関係ない事情まで丁寧に説明する
本人としては「誠実に説明している」つもりでも、
行政にとっては判断の妨げになる情報になってしまうことがあります。
行政が知りたいのは、基本的にこの二点だけです。
・要件を満たしているか
・例外として扱う合理性があるか
それ以外は、ほとんど関心がありません。
行政書士がやっていること
行政書士の仕事は、
書類を代わりに書くことではありません。
行政の頭の中にある
「見えない様式」を読み取り、
それに合う形で事実を翻訳すること。
・どこを書くか
・どこは書かないか
・どの順番で説明するか
・どの表現を使うか
その調整こそが、実務の中身です。
「自由」とは、放任ではない
「様式は自由です」という言葉は、
親切なようでいて、少し不親切です。
本当の意味は、こう言い換えられます。
「こちらの判断に耐える形で、
自由に整理して書いてください」
自由とは、放任ではありません。
責任を伴う自由です。
最後に、ひとつだけ
行政手続を前にして、
「自分でやれるか、専門家に頼むか」
迷う場面は多いと思います。
その判断材料の一つとして、
「様式は自由です」という言葉の裏にある意味を、
少しだけ知っておいてもらえたらと思います。
書類が通らない理由は、
努力不足でも、誠実さ不足でもないことがほとんどです。
ただ、
行政の論理と、こちらの論理が噛み合っていない
それだけなのです。
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