はじめに
開業当初の私は、自動車の新規登録における「本人申請」の範囲について、実務感覚で少し甘く捉えていた時期がありました。
販売店様も申請者本人に当たるのではないか――そう考えてしまったのです。
しかし、条文と運用を改めて精査してみると、ここには行政書士法上の重要な境界線が引かれていました。
上記の点については、単に私の理解が未熟であった面が大きく、むしろ販売店様のほうが実務感覚として適切に把握されていた部分もあったものと思います。
もっとも、この種の問題として視野を広げてみると、何も新人の私一人が迷った、という話にとどまりません。
令和8年(2026年)1月1日の行政書士法改正により、「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」行政手続に関与する行為の射程が改めて意識されるようになり、
実務の現場では、「どこまでが本人申請で、どこからが代理申請なのか」に戸惑いを覚える方が少なくない状況が続いています。
行政手続のご相談の場面では、個人の方や事業者の方から、
「これは本人申請の形で出しても、窓口で受け付けてもらえますか?」
とご質問いただくことが少なくありません。
今回は、行政書士法との関係で問題となる
「本人申請」と「代理申請」の境界線
について、実務目線で整理してみます。

本来の原則:報酬を得て書類を作成するのは行政書士の業務
まず大前提です。
行政書士法では、官公署に提出する書類について、
- 他人の依頼を受け
- 報酬を得て
- 業として作成する
ことは、原則として行政書士の独占業務とされています(他士業の独占業務を除く)。
このため、形式的に見ると、
本人以外が、報酬を得て書類を作成する
場合には、行政書士法との関係が問題になり得ます。
では「本人申請」なら誰が書いてもよいのか
ここでよくある誤解があります。
それは、
本人申請なら、周りの人が作ってあげても問題ないのでは?
という理解です。
結論から言うと、ケースによって評価が分かれるのが実務です。
行政書士法の判断では、単に申請名義が本人かどうかだけでなく、例えば次のような事情が総合的に見られます。
- 誰の依頼で
- 誰のために
- どの程度関与して
- 報酬性があるか
- 反復継続性があるか
つまり、表面上「本人申請」の形をとっていても、実質的に第三者が業として関与していれば、問題視され得る余地があります。
実務で混乱しやすい典型例
ケース① 家族が代わりに書類を作る
本人が主体となっており、家族が一時的・無償で補助する程度であれば、直ちに問題になる場面は多くないと考えられます。
もっとも、
- 継続的に行っている
- 実質的な対価の授受がある
といった事情が出てくると、評価は変わり得ます。
ケース② 会社の総務担当が許認可書類を作る
自社の手続を社内で処理する場合は、通常、自己の業務の一環として整理されます。
ただし、
- グループ会社横断で有償代行
- 外部向けサービスとして展開
などの形態になると、評価が問題となる余地があります。
ケース③ 販売店・業者が手続を手伝う
ここが実務上もっとも誤解が多いポイントです。
特に各種登録・許認可分野では、
- 必要書類の案内
- 記載例の提示
- 書き方の一般的説明
といった関与から、
- 申請内容の具体的作成
- 依頼に基づく書類作り込み
まで、関与のグラデーションが非常に広く存在します。
どこまでが単なる手続補助で、どこからが「業としての書類作成」なのか――
ここは実務家でも一度は立ち止まる論点です。
(橋渡し)この問題は特定分野に限られない
もっとも、この論点は自動車登録など特定の手続に限った話ではありません。
官公署提出書類全般に共通する構造です。
その典型例として、近年ご相談が増えている補助金分野を見てみます。
ケース④ 補助金申請のサポート業務
補助金申請の現場では、例えば次のような整理が見られることがあります。
- 申請名義は事業者本人
- 支援事業者は「コンサルティング料」として対価を受領
一見すると「本人申請」の形を保っているようにも見えます。
しかし、行政書士法との関係では、名目だけでなく実質的な関与の内容が検討対象となり得ます。
具体的には、
- 誰の依頼に基づいて
- どの範囲まで申請内容の作成に関与し
- その対価の性質が何であるか
- 反復継続して行っているか
といった事情を総合的に見て評価される可能性があります。
名称が「コンサル料」であっても、直ちに行政書士法との関係が整理されるわけではない点には留意が必要です。
実務感覚で見る評価の目安

あくまで一般論ですが、実務感覚としては次のように整理すると理解しやすいでしょう。
◯ セーフ寄り
- 本人が自ら内容を記入している
- 家族が一度だけ無償で補助
- 窓口レベルの一般的記載案内
△ 注意ゾーン
- 業者が内容作成に深く関与
- 実費名目だが実質対価性がある
- 同様の補助を継続的に実施
× アウト寄り(リスク高)
- 報酬を得て反復継続
- 名義だけ本人で実質代行
- 外部向けに代行サービス化
※最終判断は個別事情によります。
なお、本稿における「セーフ寄り」「注意ゾーン」の記載例については、慎重に整理したつもりではありますが、表現上、小職の意図しない受け止められ方となる可能性も危惧しております。疑義等がございましたら、お問い合わせフォームからご意見をお寄せいただけますと幸いです。
あなたのケースはどちらに近い?
実務で迷ったときは、次の点を一度整理してみてください。
- 報酬(名目を問わず)は発生しているか
- 同様の対応を反復継続していないか
- 名義と実態は一致しているか
- 誰の依頼で行っているのか
一つでも判断に迷う場合は、事前に専門家へ確認しておくことが安全です。
おわりに
「本人申請」と「代理申請」の境界線は、条文だけ読むと単純に見えます。
しかし実務の現場では、関与の態様が連続的に存在するため、思いのほか判断に迷う場面があります。
だからこそ、
誰のための、どの位置づけの手続なのか
を一度立ち止まって整理することが、結果的に安全な実務につながります。
本稿が、日々の手続判断の一助になれば幸いです。
……と、ここまで講釈めいたことを書いてきましたが、当の私自身、日々の業務ではこの種の判断にヒヤヒヤしながら進めておりますです。
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